歴史
なるこ和紙
長い日本の歴史の中でも,特に貴族文化で大いなる彩りを添えた雁皮紙。その“美しさ”を現代へと継承するうえで大切なのは,今も昔も「自然の恵み」であることにかわりありません。そこで成子紙工房の雁皮紙を特徴づける5つの要素……「雁皮」「楮」「三椏」「ノリウツギ」「草木染め」についてご紹介しましょう。
雁皮(ガンピ)
雁皮もじんちょうげの落葉低木で、成木は三メートル余りになります。繊維は細くて短く、光沢がある優れた原料ですが、成育が遅く栽培が難しいです。
楮(コウゾ)
楮はくわ科の落葉低木で、成木は三メートル余りになり、栽培は容易で毎年収穫できます。
繊維は太く長く強靭なので、障子紙、表具用紙、美術紙、奉書紙に使用されます。
三椏(ミツマタ)
三椏はじんちょうげ科の落葉低木で、成木は二メートル余りになり、苗を植えてから三年毎に収穫できます。
繊維は柔軟で細くて光沢があり、印刷適性に優れているので、日本銀行券の原料として役立っています。
ノリウツギ
和紙の流し漉きはネリと呼ぶ一種の粘剤を用いるのが特徴です。一般的にはトロロアオイから抽出したものが使われますが,成子紙工房では,主に,近くの山野に多く自生しているユキノシタ科のノリウツギから抽出したものを使用しています。トロロアオイと比較しますと,ノリウツギの方が,夏季にはネリとしての効力を長く保ち,キメの細かい紙肌になります。紙漉きは,このネリの加減と紙料の濃度によって,長年の経験で得た勘で抄き方を調節します。ネリのことを工房周辺ではニベといい,近江の紙すき唄にも,
わたしやこの家の紙漉き女
にべの加減か まだ知れぬ
にべの加減はもう知れたけど
紙の目方か まだ合わぬ。と唄われています。
藍や草木染め
かつて平安文化を支えた女流歌人や文学者達が,いつも懐(ふところ)にしのばせ,詩想が浮かぶと「かな文字」で筆を走らせた「薄様」の王朝染雁皮紙。薄様は女性用の料紙だったこともあり,特徴として多彩な色彩が挙げられます。成子紙工房の王朝染雁皮紙をはじめとする雁皮紙には,「藍」をはじめ「紅花」「橡(つるばみ)」「黄檗(きはだ)」「紫草」「蘇芳」「栃葉」「梔子(くちなし)」「刈安」「阿仙」…etcの天然染料と顔料を使用。化学染料では決して表現する事のできない,渋く落着いた“淡い”色彩を醸し出しています。